フランス留学のためにミニマリストになりたい女

アラサーでフランス音楽留学中の女が奮闘する記録。

君たちはどう生きるか

スタジオジブリの「君たちはどう生きるか」が2023年11月からフランスでも公開になったので見に行ってきました!!

パリ郊外の映画館でしたが、小さめのスクリーンではあったものの、ほとんどがフランス人のお客さんで埋まっておりさすが世界の宮崎駿・・・!と思いました。

フランスでのタイトルは Le Garçon et le Héron (少年とアオサギ)という直接的?なものになっています。

作中で「君たちはどう生きるか」の本が出てくるシーンではタイトル直訳された字幕が出ていましたので、果たして日本語タイトルとこの本のタイトルが同じだということは外国の人はわかるのかな・・・?

 

日本では事前に宣伝がほとんどされなかったこともあり、公開からかなり話題になっていた印象でしたが、多くの感想が「よくわからなかった」「難解」という内容だったのであまり期待しすぎずに見に行こうと思っていました。

見てみると、確かに以前のジブリ作品のようなわかりやすいエンタメ的ストーリー性は捨てたな!という感じでかなり抽象的な印象を受けましたが、それだけに受け手側に解釈の余地があり、これはこういうことなのかな?と色々考えながら見るのも面白かったです。

そして私はこう解釈した!と語りたくなるのもまたすごい作品のエネルギーだと思います。ということで、私の感想もつらつらブログに書きたいと思います。

 

作品の前半は主人公眞人の置かれている状況の説明シーンが続き、現実世界のパートという感じなのですが、セリフが少なくて見ていてだんだん不安になりました笑

その分、スクリーンいっぱいに書き込まれた絵の説得力、凝った音響といったセリフやナレーションではなくシーンで説明していくアプローチなのだなと理解しました。

これまでの宮崎作品とは違う、どこかフランス映画のようなアプローチはアニメーションで極力見せていくという巨匠の新しい挑戦に思えました。

ネットニュースなどで、最近のエンタメは視聴者に事細かに説明しないと理解を得られにくという記事を見たことがあります。

個人的にも最近人気だというテレビドラマを見ると、あまりにセリフがくどくないか?と感じることがあったのですが、そういった風潮とは真逆の挑戦です。

 

現実のシーンに続いて、架空の世界観というかファンタジーシーンに入っていきます。

あまり説明が多くないことから、巷では作品のディテールに対して考察する動画などが色々あるようですが、私の感覚ではあまり辻褄を合わせてSF作品の設定のようにこのファンタジーシーンを見る必要はないかな、と感じました。

「7番目の羽」や「13個の無垢な石」など何か意味があるのかな?と思わせるモチーフは色々ありますが、こういう現実世界とは違う世界観なのだ、と思わせるセリフとして捉えて問題ないような気がしています。

 

他にも過去のジブリ作品のオマージュが多い、と言われているようですが、私はオマージュというより宮崎監督のスタイルの範囲かなと思います。

古い屋敷の階段や、森に入っていくと不思議な世界に通じている、などトトロを思い出したりもしますが世界中の他の童話でも出てくるモチーフだと思いますし、過去作を回顧しているというより宮崎作品の持ち味、という程度かなと思います。

クラシックの作曲家も、気に入ったモチーフを他の作品で使ったり、似たモチーフを多用することはよくあります。それは使いまわしとか回顧ということではなくて、作曲家のスタイルといえるはずです。

 

ストーリーやテーマについては人それぞれ解釈があるようなのですが、私は戦争や家庭環境などから苦しさ、葛藤を抱えた主人公眞人が、死と隣合わせの精神世界を旅し、現実と向き合う覚悟を持つ、というストーリーだと思いました。

汚さ、悪意を拒否して自分だけの世界に引きこもることもできるけれど、自分の中にもある悪意や折り合わない気持ちを受けいれて現実を歩くことを選ぶ、そういった力強さとすがすがしさを感じました。

 

アオサギは一体どういう存在なのか、見終えたあともはっきりとしませんでした。

見ている時は、いつも違う場所に連れて行ってくれる友人を表しているような気がしたのですが、映画を見終わってから他の人の感想を見ていると、アオサギは眞人の折り合わない気持ちの象徴と書いている方がいて、その解釈はとてもしっくりきました。

アオサギは初めの方に眞人はナツコさんを嫌っているだろう、ということを言います。

また、実母に会わせようと声をかけたり偽物に会わせたりするのですが、ナツコさんを受け入れられない、実母に会いたいという自分の中の折り合いがつかない気持ちがアオサギなんだと思います。

最後に眞人がアオサギを友達だ、と言いますが、折り合わない自分の気持ちを受け止めて向き合う表現だと思いました。

 

ナツコさんがなぜ下の世界にいるのか、それも出産という死と隣り合わせの恐怖、眞人との新しい関係を築いていけるかの不安から彼女もまた眞人と同じく死と隣り合わせの精神世界にいるからだと思います。

一族の者しか入れない世界、という説明がされていましたが、不安定で繊細な気質が遺伝しているということなのかなと思いました。

 

つらつらと色んなことを考えながらこの映画を見ていましたが、とにかく画面いっぱいに広がる美しい映像世界、独特の世界観、何より宮崎監督があの年齢でこんなに繊細な少年の精神世界をここまで拡大して描けることにとにかく圧倒されました。

私は今宮崎監督の半分以下の年齢ですが、あんな少年時代の擦り切れそうな感覚はもう遠い記憶で、あんなに詳細に作品にすることは想像できません。

そして見たあとにこんなに語りたくなる、という作品のエネルギーはやはりゼロから作りだされる芸術の強さだな・・・と感じます。その力は再現芸術とやはり桁が違うと感じました。

宮崎監督のスタイルはありつつも、色々な見たことのないデザイン、世界観をこれだけの密度で展開するすごさ、以前よりもCGを使っているなと感じましたが、それが独自のスタイルときれいに融合しているすごさ・・・。

これが巨匠か・・・と改めて目の当たりにし、大きく心動かされる作品でした!